第三回 「初陣」






雒陽は、幽州のはるか南を流れる黄河を越えた地にある。黄河は三璃紗を中原(三璃紗中央)と河北(三璃紗北方)に分ける河だ。
劉備たちはその雒陽を目指して河北の地を騎馬でひたすらと南下している。後ろには二百人ほどの義勇兵がまちまちの武装で付き従っていた。
「馬に兵隊、よく集められたねー」
劉備が親しげに関羽の肩をぱんぱんと叩いた。関羽はしかし少しも嬉しそうな顔をせず、
「これ位は少しの才覚があれば出来る事だ」
とだけ言った。
「おいらにはその才覚も無いなぁ」
「お主にはそんな小さな才覚など期待しておらん。もっと大きなところで器を見せてくれれば良いのだ。その為にお主を長兄としたのだ」
劉備、関羽、張飛の三人は桃園で誓いを立てて義兄弟となった。その時長幼の順を劉備、関羽、張飛の順に定めた。劉備は三兄弟の長兄となったのだ。
「おい、あれは」
張飛が前方を指差した。遠くてよく分からないが砂煙が巻き起こっている。
「あれは……戦が行われているようだ」
関羽が背中の偃月刀に手をかける。そのまま更に近づくと「董」の字が書かれた旗が翻っているのが見えた。
三璃紗では軍旗や将旗に書かれた文字で、その軍がどこの所属なのか、その軍を率いているのが誰なのかを見分けている。
「ありゃあ、董卓軍の軍旗じゃねぇか!」
張飛が蛇矛を振り回していきり立った。
「戦況は互角のようだが、董卓軍と戦っている者どもは装備もぼろぼろでどうやら正規軍では無いようだ。どうする?」
「どうするって……加勢するに決まってる!」
劉備も刀を抜くと、馬の速度を更に上げた。劉備を先頭に義勇軍が董卓軍の横腹に突っ込んでいった。
「劉備殿、我らの武を見せよう!」
そう言うと関羽は単騎で敵の群れに突っ込んでいった。と、瞬く間に十人ばかりの董卓兵を切り伏せてしまった。恐るべき武勇である。
「この張飛様が相手になるぜっ」
張飛も負けてはいない。ぶーんと頭上で蛇矛を旋回させるとまるで草を刈るように董卓軍を薙ぎ払っていく。


 


「す、凄い……こんな強い武人が二人もおいらの力を貸してくれるのか」
劉備は自分が戦うのを忘れてその姿に見入った。と、一騎の武者が劉備めがけて一直線に突っ込んできた。
「うわっ!」
劉備が間一髪でその武者の剣撃をかわす。
「貴様ら何物だ?! 我らを官軍と知っての狼藉か?」
「何が官軍だ。董卓こそが漢王朝に仇なす真の逆賊じゃないか!」
「言わせておけば……この馬元義が貴様らを討伐してくれるわ!」
馬元義ザクは再び劉備目掛けて突っ込むと激しく刀を打ち込んできた。劉備は防戦一方で誰の目にも不利である事が明らかである。
「これで終わりよ!」
馬元義が決着をつける一撃を叩き込もうとしたその時、小刀がどこからともなく飛んできて馬元義の馬の額を貫いた。
馬は棹立ちになり、馬元義が落馬する。形勢逆転だ。劉備は地面に転がる馬元義にばっと飛びつくとその胸に刀を突き立てた。
「敵将、討ち取った!」
劉備が大声で叫ぶ。将を失った兵は惨めなものだ。董卓軍はほうぼうの体で四散していった。
「おめぇ、思ったより弱ぇなぁ」
「うるさい、張飛。それにしてもあの小刀は……」
「拙者にございます」
見ると、古い甲冑に身を固めた武者が二人、劉備の前に跪いている。





「拙者、彗星と申す者。この者は烈光。反董卓の義勇軍を結成しましたが先ほどの奴らに襲われておりました」
「なんだ、そうだったのか。それにしてもあんた、相当の腕前だね」
「武術には少し自信が御座います。我らを貴方がたの軍に加えていただけませんか? 今日の戦いで董卓に勝つには数も重要だと思い知りました」
「悪い話ではない」
と彗星の申し出に関羽が頷く。
「分かった、おいらは劉備ってんだ。この義勇軍の大将をやってる。よろしく頼むよ」
彗星ガンダム・烈光ガンダムの二将と義勇兵が百ばかりほど、新たに劉備軍に加わる事になった。



馬元義隊敗れる、の報は直ちに董卓軍の幽州方面軍の本陣に伝わった。
幽州方面軍を束ねるのは張角パラスアテネ・張宝ボリノークサマーン・張梁メッサーラの三兄弟で、彼らは部下の頭に黄色い布を巻きつけさせていた事から黄布隊と呼ばれていた。
「義勇軍に馬元義が破れるとはな」
「大方敵が農民上がりの義勇兵だからと油断していたんだろ。張角兄ぃ、張宝兄ぃ、この俺に後始末は任せてくれ」
「分かったわ。だけど黄河を越えてこの辺にも反董卓連合軍の一部が進出してるって話だから余り多くの兵は預けられないわよ」
「なぁに、千人ほども連れて行ければいい。それじゃあ、吉報を待っててくれ」
張梁は黄巾兵を千人ほど引き連れると劉備らの迎撃の為に本陣を後にした。
「張角兄さん、反董卓連合軍の一部が出没してるというのは?」
「黄河以北の諸侯や義勇兵との連合を図ってるらしいのよ。高昇と程遠志の二人に討伐を命じたんだけどまだ何の音沙汰も無いからもう負けちゃってるかもねぇ」
「手ごわい相手だと?」
「報告によると敵の数は五千ほどもあるそうよ。曹操軍・袁紹軍・轟天軍・劉表軍の兵士から選抜した混成軍を凄腕の将軍が率いてきてるらしいの。頭の痛い話だわねぇ……」
「これというのも曹操が我らを裏切って董大師(董卓は大師の称号を名乗っていた)に立てつく真似をした為……」
「本当に憎らしい奴よ。早く幽州の敵を討伐して曹操たちを相手に暴れたいわ。ま、私たち三兄弟には奥の手があるから、いざとなったらそれで義勇軍も凄腕の将軍も捻り潰してやるわ、うふふ」



次回を待て!






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