第二回 「桃園結義」






「世の乱れを糾さんとする義心ある者は貴賎を問わず反董卓連合の旗の下に参じよ」
三璃紗全土に突如として回されたこの檄文に応じ、各地で諸侯や義勇軍が反董卓の旗を挙げていた。
彼らは董卓の陣取る三璃紗の首都・雒陽を目指して進軍を開始した。
一方董卓軍も討伐部隊を各地に派遣、今や三璃紗全土は戦乱の渦に巻き込まれようとしていた。



幽州の州都・佛土【ぶっど】。幽州一の人口を誇るこの街を劉備は訪れていた。ここならば、同志が見つかるのではないかと踏んだからである。
劉備は、反董卓の旗を揚げ、戦乱の世に名乗りを挙げる心積もりであった。
(あんな幼い子どもでも飢えて盗みを働こうとしていた。このままではこの国は駄目になる)
志はある。しかし力が無い。強大な軍事力を持つ董卓の前に一個人に過ぎない劉備は無力であった。
それを思うと、知らず知らずのうちに溜息が漏れる。と、
「おい、そこのお前!」
呼びかける声に劉備は我に返った。振り返ると大きな蛇矛を肩に担いだ男がこちらを睨みつけていた。





「さっきから俺の前を塞ぐようにして歩きながら溜息ばかり。こっちの気まで滅入ってくるじゃねぇか!」
「お、おいらの事かい? それは悪かった……」
男はもの凄い威圧感を放っていた。劉備はついつい萎縮してしまい、それがまた男の怒りの火に油を注いだ格好となったようだ。
「大体大の男が溜息をつくなんて情けねぇ! それにぺこぺことしたその態度も気に入らねぇ! お前みたいな軟弱な奴がいるから世の中が乱れるんじゃねぇか!」
流石の劉備もムッときて、男を睨み返した。
「随分な言い様だが、おいらは幽州の北斗七星・劉備だ! あまり馬鹿にするなっ」
「幽州の北斗七星? 聞いた事ねぇぞ」
「その内知ることになるさ、董卓を倒してこの国を救った英雄の名前としてなっ」
「その大言、聞き捨て出来ぬな」
男の後ろから、更にもう一人の男が現れた。立派な髭を生やし、背中に大きな偃月刀を背負っている。
「劉備とやら、軽々しく物事を口にするのは小人ぞ」
「おいらは本気だ!」





劉備と髭男が激しく睨み合う。
(この男の目の色、つまらぬ小人のものではない)
髭男はふっと凄味を解いて、穏やかな顔つきになった。肩透かしを食らった形になった劉備はぽかんとしている。
「喧嘩を売って悪かった。我が名は関羽、こいつの名は張飛。我らは最近義勇軍を結成してな、戦を前に気が立っていたのだ」
髭男――関羽ガンダムは劉備に握手を求めた。
「もしよければ我らと共に戦わぬか?」
「ああ、それは願っても無い話だ。だけど、俺は人の下につくのは嫌だ」
「なにぃ、こいつ調子に……!」
いきり立つ張飛ガンダムを関羽は笑って宥めた。
「面白い、お前の器をひとまず信じよう」



あたり一面に桃の花が咲いた広場に、酒とささやかな料理が用意されている。
「これは……?」
劉備はその様子を見て関羽に訊ねた。関羽が張飛と劉備をこの桃園に来るように言いつけたのだ。
「劉備、お主に従うのは承知したが、主君と家臣の関係ではプライドの高い張飛がつむじを曲げる。そこでだ……」
関羽は杯を二人に渡すとそれぞれに酒を注いだ。
「我らは義兄弟となるのだ」
「義兄弟……」
「そうだ、君臣関係より重いぞ。お前が我らを導くに値する器の持ち主ならば未来永劫、我らはお前に従おう。しかし劉備、お前がただのほら吹きであった場合には……」
「義兄弟の契りを穢したとして、お前を叩っ斬る!」
張飛が酒をぐいと飲み干すと、自慢の蛇矛を劉備の前に差し出した。
「それでよいな?」
関羽も偃月刀を劉備の前に差し出した。劉備も最初は驚いてる様子だったが、覚悟を決めたのかこくりと頷いて、自分の剣を二人の武器の方に突き出した。
「我ら三人、生まれし日は違えども、死する日は同年同日を願わん!」






次回を待て!






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