第一回 「劉備、三璃紗に立つ」






多くの人々が暮らす広大な大陸、三璃紗【みりしゃ】。
代々漢王朝が平和に統治してきたこの国も戦乱の渦に巻き込まれようとしていた。



それは漢王朝内部の権力争いに端を発す。
時の皇帝・霊帝ガンダムの側近には二つのグループがあったのである。
一つは、霊帝の実母・董太后を後ろ盾とし、文官達が集まって結成された文治派。
一つは、霊帝の妻・何皇后を後ろ盾とし、武官達が集まって結成された武断派である。
武断派の頭目であり、何皇后の兄でもあった漢王朝の大将軍・何進ガンダムは自分と対立する文治派一掃の為ある策をたてた。
三璃紗各地に割拠する諸侯の軍勢を呼び寄せ、軍事クーデターにより王朝の実権を握ろうというのだ。



そこに、落とし穴があった。
何進の呼びかけにいち早く応じたのが、三璃紗西方の涼州を統治していた董卓ザクである。
彼は西方から十万にも及ぶ兵力を引き連れ、三璃紗の首都・雒陽【らくよう】に入った。しかし――



三璃紗北方、幽州・楼桑村。
「誰か、助けて!」
「このガキ、俺らの食料を盗もうとしてタダで済むと思うなよ」
「やめろ!」
兵士が三人ほど一人の少年を囲んでいる。と、その一団に一つの影が勢いよく飛び込んだ。
「な、なんだ?!」
「子ども相手に恥ずかしくないのか? お前らの相手は幽州の北斗七星、この劉備が相手だっ」





突然の乱入者に兵士達は浮き足立った。劉備と名乗った男は背中に背負った二刀を抜き連れて、彼らと対峙する。
「天下の董卓軍に歯向かうとはいい度胸だ、覚悟しろ!」
三人の兵士も腰の刀を抜くと、劉備ガンダムに一斉に襲いかかった。しかし、劉備はその剣先を鮮やかにかわすとそれぞれの手元に峰打ちで剣撃を叩き込んだ。
「ぐあっ」
刀を地面に落としうずくまる兵士達。その喉元に劉備は剣先を突きつけた。





「今日はこの辺で許してやる。あんまり無茶苦茶するようだと、次は容赦しないぞ」
力の差は歴然である。兵士達は尻尾を巻いて逃げ出した。劉備はその姿を見届けると、うずくまる少年に向き直った。
「どうしたんだい?」
「ボクどうしてもお腹が空いて……それでついあの兵士達の食べ物を盗もうとしちゃったんだ」
「そうか……。どんな理由であれ盗みは良くない。今日はこれをあげるから、もうこんな事するなよ」
劉備は行李から握り飯を取り出すと少年に差し出した。
「それじゃ、俺はもう行くから」
「ありがとうお兄ちゃん!」
劉備は楼桑村で生まれ育った青年である。今彼はその故郷を後にしようとしていた。三璃紗全土に暴政を敷く董卓ザクを倒すための義勇軍徴募に応じる為である。



雒陽に入った董卓は、しかし何進ガンダムの手助けをするつもりはなかった。
彼は引き連れた十万の兵力を背景に、文治派武断派問わず抵抗する人間を次々と処断していった。
そしてその仕上げとして何進と、霊帝をその手にかける非道を行い、漢王朝を手中におさめていたのだった。
以後各地では董卓の息のかかった役人による暴政が続き、三璃紗は荒れに荒れていた。
物語はこの荒廃した三璃紗で幕を開ける――



次回を待て!






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